ドクターズコラム

2017年秋「心臓病とターミナルケア」

ターナルケアとは末期癌患者さんに、癌そのものの治療よりも痛みや苦しみの緩和に力点を移し、自分のための時間や家族、友人と残された時間を人間として尊重されて過ごすことを目的とした治療であることは今日よく知られています。現在多くの病院に緩和病棟が開設されていますが、私が大学を卒業した30年前には日本にはホスピスが数カ所あるのみでした。その後医療の進歩で平均寿命が延長し、心不全や認知症など高齢の非癌患者さんが急増、その終末期にも緩和ケアの必要性が認識されつつあります。

心臓の機能が慢性的、高度に低下した高齢患者さんは、多くのお薬や機械(ペースメーカーなど)で治療され、服薬状況、食事、塩分や水分の取り方、ストレスなどで容易に悪化するため、入退院を繰り返すようになります。急変することも多く、急性期病院には多く搬送されています。先進医療の恩恵を受け救命される一方、本人にとって不本意な人工呼吸器や透析などの延命治療が施されることもあります。元々足腰が弱っていたり高度認知症を合併したりで、心臓の状態が良くなっても寝たきりになり自宅に戻れないことも大きな問題です。そこで、日本循環器学会や日本心不全学会では近年、心不全の末期治療ガイドライン(指針)を作成しました。末期心不全患者さんの苦痛(精神的なものも含めて)を和らげ、その人らしい終末を送ることができるように配慮するというものです。しかし、日本ではホスピス入所が健康保険上癌患者に限定されていること、循環器内科では癌を治療することがないこと、などから心臓病患者さんへの緩和ケアの実践は途についたばかりで、ちょうど30年前の癌末期患者に似た状況と言えます。

昨今「終活」ブームですが、多くが無宗教の日本人にとって「死」の問題は長い間タブーでした(A.デーケン)。しかし戦後の日本を牽引した団塊世代が大量に定年を迎え、過去の価値観に囚われない、自分らしい最期を迎えたいという人が増えているようです。医療の世界もこれまでのように、単に病気を治すこと、寿命を伸ばすことを追求するのでは無く、本人の意思を尊重し、個々に応じた治療を選択させる視点も加わるようになってきました。誰にでもいつかはやってくる「自分の死」について考えておくこと、家族にも話をしておくこと、できれば文書(リビングウィル)にしておくことで、医者任せでない自分らしい最後を迎える準備をすることが提言されています(アドバンスケアプランニング;ACP)。そうすれば自分の人生に何が大切だったのか洞察が進み、むしろ心の平穏が得られ「やすらぎの郷」にたどりつけるかもしれませんね(ホスピスの語源は聖地への巡礼者に食べ物や宿を提供する小さな教会のことです)。



第53号 しまばら通信より・2017年 秋

<このコラムの執筆:循環器科部長 山田 武彦

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